ボディメイクやダイエットといえば、多くの人がランニング、サイクリング、水泳などの有酸素運動をイメージします。ダイエットつまり、体脂肪を減少させる局面では有効であるこの有酸素運動も、あまり考えずに行うと筋力低下から代謝が下がり、逆効果になることもあるので少し知識が必要です。ボディメイクにおける有酸素運動の取り入れ方とメカニズムについて理解を深めていきましょう。

有酸素運動で痩せる仕組みの定説

有酸素運動で脂肪が燃焼する仕組みは、運動によって摂取カロリーよりも消費カロリーが上回るからだ考えがちですが、実際のところはもう少し深い理解が必要かもしれません。体脂肪が燃焼する仕組みは、概ね一日の総代謝(総消費カロリー)が食事で摂取したカロリー(エネルギー)を上回ることで、エネルギー源が枯渇し、生命を維持するために、脂肪、筋肉、骨などを分解しエネルギー源にします。この際に、脂肪が多く使われることから、概ね運動などによって摂取カロリーを上回る総代謝があれば脂肪が使われ体脂肪は減少します。ですが同時に筋肉や微量の骨の分解もおきるために、あまりにアンダーカロリー状態になるのは、筋量低下から代謝が下がるので、長期的なボディメイクにおいてはマイナスの面もあることが見落とされがちな有酸素運動のデメリットです。有酸素運動は脂肪も燃焼させるが同時に筋肉も分解されて減っていくことで代謝が落ちるので、そのバランスを見てあなたのボディにとってベストな選択が出来るようになっておきたいですね。

有酸素運動による代謝の低下はトレーニング法(筋力トレーニングと組み合わせる)や食事法(高タンパク状態の維持や摂取タイミングをトレーニング前後両方におく等)によって、筋肉と骨の分解は軽減することができます。詳しくはまた別項にて解説しますが、ここではアンダーカロリー状態は体脂肪の減少に寄与するものの、あまりに過度なアンダーカロリー状態には注意が必要である旨を知っておきましょう。ボディメイクにおける体脂肪の減少は、摂取カロリーを総消費カロリーが上回ることによって起きますが、同時に代謝も下がりやすいので、食事法のみのアンダーカロリー状態の場合には、摂取カロリーを元に戻した際に、代謝が下がっていることからオーバーカロリーになりやすく、余ったカロリーは脂肪として蓄積されるのでこちらも注意が必要です。また、食事制限等によるアンダーカロリー状態は、カロリー以外でもビタミンやミネラル等の必要な栄養が不足する可能性があるので、健康的な面からも適切な食事を維持しつつも一日の消費カロリーを大きくすることによって、カロリー収支を考えることが推奨されます。

ここでしばしば登場する代謝とは、内蔵や筋肉が活動をする際に、酸素を取り込みながらエネルギー物質である、グリコーゲン等のアミノ酸を消費する一連の流れを代謝といい、私達が生きるためにエネルギーが用いられる仕組みのことを指します。心臓が動き続けたりと、内蔵等が生命活動を維持するために使われるエネルギーを「基礎代謝」といい、一日の基礎代謝とは私達が全く動かなかったとして消費されるカロリーのことを指します。対して身体を動かしたり、筋肉を動かすことに使われるエネルギーを「活動代謝」といい、この2つを合わせたものを総代謝といいます。

理解のために、重複してお伝えします。

・摂取カロリー>総代謝(基礎代謝+活動代謝)=オーバーカロリー(太る)

・摂取カロリー<総代謝(基礎代謝+活動代謝)=アンダーカロリー(痩せる)

これらはあくまで非常に簡易化された思考モデルであり、実際のところは、食事内容によって血糖値の上昇具合から脂肪への繋がりやすさが変わったり、同カロリーの油でも、菜種油よりもエクストラヴァージンオリーブオイルの方がエネルギーとして変換されやすく脂肪として蓄積されにくいなどの細かな、生化学的変数がありますが、有酸素運動を必要とする局面におけるカロリー理解においては、カロリー計算で充分機能します。

ホメオスタシスはそのままの体型でいようとする

これらの有酸素運動の活動にホメオスタシスを考慮すると少し風向きが変わります。ホメオスタシスとは、私達の身体が今ある一定の状態を保とうとするはたらきのことで、良くも悪くも現在と同じ状態を維持しようと私達の身体にはたらきかけます。有酸素運動の場合では、有酸素運動を行うことで運動時の活動代謝は上昇しますが、それに伴って安静時(普段の生活のなかでの)消費エネルギーを下げようとすることが科学的に示されており、有酸素運動によって活動代謝があがっても、安静時にあまり動かなくなり、それによって一日総代謝は運動を取り入れる前と変わらない可能性が示唆されています。厳密に言えば、活動によって消費したカロリーと安静時に動かなくなる分のカロリーの収支(プラスマイナス)は完全にイコールになるというわけでなく、あくまで活動をすると、安静時に動かなくなる傾向にあるというだけで、活動が完全に相殺されることは考えにくいのですが、体感としてもスポーツジムに行ったあとには、そうでない日よりも疲労感から動きたくなくなるのは、想像に容易いもので、ある程度は活動時と安静時で調整が成されるようですね。

活動代謝を大きくすると、安静時の動きが小さくなるホメオスタシスの働きによって、運動で得られる痩身の恩恵は、体重や体脂肪が減少していくほどに小さくなり、「だんだん痩せにくくなる」という現象に至ります。つまり、有酸素運動によって体重及び体脂肪が減少する仕組みは、有酸素運動そのものの消費カロリーによる効果ではなく、有酸素での運動を行うことによる、筋力と身体能力の上昇に伴う総代謝の上昇が主眼であることが分かります。多くの人が運動によって痩せる仕組みとして運動時のカロリー消費を見ていますが、実際には少し違っていて、あくまで総代謝と摂取カロリーとの収支で考える必要があるために、主眼を「運動カロリーで消費する」意識から、運動によって「代謝を上昇」させて、食事との収支をアンダーカロリーにしやすくすることが大切であることが見えて来ます。

有酸素運動を効果的に使うには

有酸素運動によって体脂肪を燃焼させるためには、代謝での収支をアンダーカロリーで行うことが重要だとお伝えしましたが、カロリー収支以外にも運動強度によって脂肪燃焼効果を高める効果を狙うことが可能です。こちらのアプローチはカロリー収支よりも身体への反応が早く出るので、ボディメイクにおいて、痩身の段階にあるときにはこちらのアプローチも取り入れてみると良さそうです。

メタボリックシンドロームを対象とした事例や過体重の方に対する運動の事例を見ても、運動時間による痩身への優位性は見受けられない結果が多くを占めています。驚くべきことにランニングやジョギングが1時間を超えても、有効にはたらくことはあまりないようです。これは上記のホメオスタシスの記述を補強する形でもありますね。メタボリックシンドロームや過体重の方に限らず、アスリートレベルの人たちまで多くの人に、体脂肪の減少が見られたのは、運動強度が強い場合です。長時間運動した人よりも、より早くウォーキングやランニングをした人たちが総じて高い効果を得ています。このことからも、運動による体脂肪の変化は、運動時間でなく運動強度によるものだと推察できます。

また、運動経験のレベルに応じて負荷は調整されるべきで、運動初心者や久々に運動をはじめた人にとっては、時速10km程度の軽いランニングも高い強度であり、主観的に「キツイ」と感じ、運動経験が長い方にとっては、時速18kmのランニングで丁度良い方もいます。身体能力のレベルに合わせて、効果を一定に保つためには、主観的運動強度を考えるのが効果的で、当たり前のことですが、自分自身にとって「ちょうど良い負荷=適切な運動強度」が有酸素運動を効果的に行うために大切な考え方です。

適切心拍数を求めるカルボーネン法

体脂肪を減少させるために、有酸素運動の最適な運動強度とは、どのあたりがベストなのでしょうか?数々の研究を見てみると、有酸素運動時間が40分を超えたところから運動効果が減少し、60分を超えると筋力と筋肉の低下が顕著に現れています。これは以前お話した、長時間のトレーニングによる筋分解の悪影響でもあると言えるでしょう。そして、有酸素運動の際の心拍数が限界心拍数の80%以上になった段階から100%に向けて急激に脂肪の減少効果が見られています。この2つから、運動時間は20分〜40分まで、長くても1時間を超えることはないようにし、心拍数を限界心拍数の80%を目安に運動強度を調整すると、体脂肪の減少に対して効果的であると言えます。

有酸素運動の種類においては、サイクリングマシン or ランニングマシン が適しているようです。ボディラインを仕上げようとしたとき、腹筋や腸腰筋活動の恩恵を考えると、ランニングマシンがベストではありますが、膝や腰などの関節への負荷も同時に高くなるため、運動初心者の頃や関節に不安がある場合には、サイクリングマシンを活用するのも良さそうです。また、運動時間においては実験での事例であるために、時間を固定して考えるよりも自分自身の身体の調子を見て、キツすぎず楽すぎず、適度な運動時間を常に模索する姿勢がより効果を高めてくれることを重ねて付言します。

あなた自身にとって効果的な心拍数を求める方法として『カルボーネン法』による適切な心拍数の算出ができます。まずは最大心拍数を求めます。これは、220から年齢を引くことで求められるので、30歳の方であれば限界心拍数は190です。この限界心拍数から、安静時の心拍数を引いて下さい。安静時の心拍数は、ジムのマシンやスマホのアプリ、活動量計やスマートウォッチなど、様々なもので計測することができます。機会がない方は、スマホのアプリであれば確実ですね。安静時の心拍数が60の方であれば、先程の最大心拍数190から60を引いて130といった具合です。ここに、運動強度0.8(80%の意)を掛けて、再び安静時心拍数を足して下さい。130☓運動強度0.8+安静時心拍数60=164と求めることが出来ます。最大心拍数は先程の例であれば190であったので、例のなかでは心拍数164から190の間を狙うことが、体脂肪の減少におけるスイートスポットだと分かります。また、安静時心拍数が80以上と高めな方、血圧の高い方はこちらの参考心拍数を低めに調整しましょう。

・A. 最大心拍数=220-年齢

・B.最大心拍数-安静時心拍数

・C. B☓運動強度0.8+安静時心拍数

Cから最大心拍数Aの間が脂肪燃焼に効果的

インターバルトレーニングに落とし込む

有酸素運動の効果を高めるためには、長時間一定の強度で運動をするよりも、間欠的トレーニング、つまりインターバルトレーニングが有効であるとされています。ここでインターバルトレーニングを具体的なトレーニングメニューに落とし込んでいきましょう。まずランニングの場合であれば、1分間の高強度ランニングと2分間の緩やかなランニングに分けます。1分間の高強度ランニングでは、先程のカルボーネン法で求めた効果的な心拍数を目標として走る速度を調整して、心拍数が適切になる速度までスピードをあげます。2分間の緩やかなランニングでは、最大心拍数から安静時心拍数をひいた程度、体感的には息が整う程度の速度まで落とします。この1分間の高強度ランニングと2分間の緩やかなランニングでのスピードを覚えておけば、2セッション目以降は測定せずとも、その数値のスピードからはじめることができます。これを20分間繰り返します(6セッションから7セッション)。サイクリングマシンにおいても、同様の考え方として、1分間の高強度サイクリングと2分間の緩やかなサイクリングに分けて、20分間繰り返します。ジムなどでは、こういったインターバルトレーニングを自動的にプログラムしてくれるメニューもあるので、お近くのジムにそういった機能があれば活用してみて下さい。また、ランニングマシンには心拍数を測定する機能がついているものが多いので、こちらも合わせて活用すると良いでしょう。

合計20分間のインターバルトレーニングは運動初心者の頃には大変なトレーニングに感じますが、これは関節の柔軟性や動きへの不慣れさからロスが大きいことによるものなので、回数を重ねるごとに段々と楽になっていきます。最初の頃はこのインターバルトレーニングを1週間に1回、一度に20分程度としてやってみましょう。トレーニング後にしっかりとストレッチをして、トレーニング後の食事を丁寧に取ることを心がければ、ほとんどの場合で1ヶ月以内、つまり4回のトレーニングが終える頃には、20分間のインターバルトレーニングが完了出来るようになっています。20分間のインターバルトレーニングに慣れて来たら、30分、少し長くて40分と長さを調整したり、1週間に2回までとしたりと、長さや頻度を調整しましょう。

運動初心者の方や久しぶりに運動をされる方にとっては、知らず知らずと、腰や膝、足首などへの負担が蓄積されやすいので、トレーニング後は丁寧なストレッチと食事を心掛けて、違和感を感じたら一旦休んで柔軟性のトレーニングに変更するなど、体調を加味しながら進めることも重要です。トレーニングはトレーニングだけでなく、前後の食事や体調、仕事にも影響されるので、時間や回数、強度や頻度に囚われず、ご自身の体感を最優先にされることをお忘れなく。

まとめ

摂取カロリー>総代謝(基礎代謝+活動代謝)=オーバーカロリー(太る)

摂取カロリー<総代謝(基礎代謝+活動代謝)=アンダーカロリー(痩せる)

一日の総代謝をあげることがボディメイクのコツ

有酸素運動の有効性は時間でなく運動強度による

効果的な運動強度にはカルボーネン法による心拍管理

インターバルトレーニングは1〜2ヶ月間で完遂出来るようになる