トレーニングの時間と量、つまりトレーニングボリュームはどの程度が適切なのでしょうか。例えば、スクワット1回で筋力が向上するとは思えませんし、反対に睡眠を除いたすべての時間スクワットを続けても逆効果です。つまりトレーニングボリュームにおいて、適切なスイートスポットがあるとわかります。個人の運動経験やトレーニングレベルに応じてどの程度のトレーニングボリュームが良いか探っていきましょう。

トレーニングボリュームの適量は難しい

トレーニングをどの程度の時間と量をこなすかは、トレーニー達のなかでも意見が分かれるところです。一昔前であれば、長時間、高重量でトレーニングをするほど良いとされていましたが、最近の研究では筋力や筋肥大の向上に関係するテストステロンホルモンやコルチゾール(ストレスホルモン)などの分析において、長時間のトレーニングは筋力、筋肥大どちらにおいてもホルモン値を減衰させる可能性が示唆されています。

おおまかな理論として、トレーニングは開始時からすぐに筋合成がはじまりますが、それと同時に血中コルチゾール濃度も高まります。それによって、ある程度のトレーニング時間までは筋合成が優位になるが、トレーニング時間が長くなるにつれてコルチゾール濃度が高まることで筋分解が促進され、筋合成と筋分解のバランスが筋分解優位になるポイントが訪れます。よって、トレーニング時間はあまりに長くなると不利になることから、トレーニング時間とボリュームは適切な長さで、テキパキと進めていくことが求められます。

また、トレーニングの量、つまり回数やセット数においてどの程度の分量が、筋力アップと筋肥大に有効かを考えるときには、ひとりひとりのトレーニングレベルや方法によっても負荷が様々で、これがトレーニングボリュームの話をややこしくします。例えば、トレーニング上級者が行う丁寧な1セットと、トレーニング未経験者が行う1セットを対象筋肉あたり同一の負荷として考えるのは違和感がありますし、1セットあたり20~30回を想定した素早いハイレップストレーニングと、ネガティブ局面を4〜5秒掛けてゆっくり降ろすネガティブトレーニングを同じ1セットと考えるのは違っているように見えます。これら個人のレベルや手法の違いを同列で計算する公式や理論はないため、適切なトレーニングボリュームをすべてのひとに向けて表現するのが難しくなり、特にトレーニング初期においては、どの意見を参考にすべきか迷いがちです。

ですので、実際にトレーニングを行いながら成果が伴っていればそのトレーニングをボリュームを継続し、停滞して来たらトレーニングボリュームの増減を検討するなどして、体感ベースで調整するのが大まかな考え方です。

トレーニング漸進性・過負荷の原理

これまでの話で、トレーニングボリュームはより多いほど効果を発揮するが、多すぎると反対に効果が減衰することを解説しました。トレーニングによる身体の変化は、より筋肉が疲労した状態で負荷が掛かり、筋発揮に動員される筋繊維の量が多くなることによって引き起こされています。筋肉はすべての筋繊維が一気に動員されているわけでなく、ごく一部が活動して筋収縮を行っています。1回、2回と回数を重ねるごとに最初に使われた筋肉が疲労し、より広範囲の筋繊維が動員されていきます。そのため、トレーニングは1セット1回でなく、1セットあたり3回程度の高負荷、10回程度の中負荷、20回程度の低負荷などと1セットあたりの回数を変えてより多くの筋繊維に刺激を与えていくのです。

筋繊維の量や細胞の数は、トレーニング上級者になるほどに多くなっていくため、トレーニング経験の高い人にとってほぼすべての筋繊維を動員するためには、より多くのトレーニングボリュームが必要になります。また、筋力が高い人にとっての10kgと筋力が未発達な人にとっての10kgでは、筋肉に掛かる負荷の量が違うために、より高い技術でトレーニング出来るトレーニング上級者ほど、扱う重量が高まります。つまり、トレーニングの上達に伴い、トレーニングで扱う負荷(重量や回数)を増やしていく必要があるというわけです。これを「漸進性・過負荷の原理」といいます。

トレーニングジムに通っている女性では多いのですが、トレーニングジムなど人目のある状態で全力のちからを振り絞ることがはばかられる環境において、MAX重量に挑戦する機会が少なくなると、結果的にいつも同じ重量や回数でトレーニングを行ってしまう人も多いものです。筋力が付いてくると、以前の重量は相対的に負荷が小さくなります。すると筋力が維持される負荷と、筋力が成長する負荷が釣り合ってしまうため、結果的に身体が変化しなくなる地点が来ます。筋肉の成長はトレーニング後3日ほどで行われるため、2〜3週間ごとに使用重量を見直して重量があがっていない場合にはフォームや意識に改善点を求めるなどして、常により高い負荷を模索することが大切です。

トレーニングボリュームのレベル別指標

2005年にアメリカで行われたメタアナリシス研究において、個人のトレーニングレベルごとの適切なボリュームについて分析されています。この研究では、個人のトレーニングレベルを「未経験者」「経験者」「アスリート」の3つに分けてそれぞれどの程度のトレーニングボリュームが筋力を最大化するかを割り出しました。1回のトレーニングにおいて1部位あたりのベストなトレーニング量を1〜16セットまで振り分けたところ、未経験者では3〜4セット、経験者では4〜5セット、アスリートでは8〜10セットあたりをピークにして向上し、それ以上のセット数を行った場合には伸び幅を落とす結果となりました。

この研究をもとに、各レベルごとの推奨トレーニングボリュームを求めます。これは筋力アップを基準にした結果です。

トレーニング未経験者の場合では、MAX重量の60%程度を、1回のトレーニングで3〜4セット、これを週3回までの範囲で行うことで効率的にその部位の筋力が高まります。研究結果によれば週に1回〜3回までトレーニングしたとき、3回までの範囲では比例的に筋力が向上しています。頻度を保てる場合には、週に3回まで頻度を高めても成果が出る可能性が高そうです。またこれは、1部位あたりで見た結果ですので、全身であれば各部位で週1〜3回と数える必要があります。

トレーニング経験者の場合では、MAX重量の80%程度、1回のトレーニングで4〜6セット、これを週2回まで。アスリートレベルの場合では、MAX重量の85%程度、1回のトレーニングで8〜10セット、これを週2回まで行うことで効率的にその部位の筋力が高まります。未経験者との大きな違いとして、トレーニング「未経験者」の場合、週3回までのトレーニングにおいて筋力は比例的に向上していましたが、「経験者」「アスリート」ともに、週3回のトレーニングから筋力の向上度合いが一気に低下していました。これは、トレーニングのレベルが向上したために、筋肉の回復が次回トレーニングまでに追いつかない可能性を示しています。これらを踏まえると、ある一定以上のトレーニング経験を経た後には、1部位あたりのトレーニング頻度は週2回までと考えたほうが良さそうです。

ちなみに、MAX重量の◎◎%という表記にもあることから、各部位各種目において、自分が最大で何キロのちからを発揮出来るのか。「1RMmax」=「最大重量」を把握しておく必要があります。トレーニングはより全力にちかいほど効果を発揮するため、上級者になるほど自分の最大重量に近い負荷でトレーニングをします。しかしながらトレーニング未経験者においては、フォームが確立されていなかったり、関節の強度が未発達であったりするために、MAX重量の60%程度とされています。無理をして怪我をしたり、関節を痛めたりしないように、最初は安全に扱える範囲で正しいフォームや軌道を習得し、トレーニングの上達とともに扱う重量をMAX重量に向けて徐々に近づけていくと良いでしょう。安全な分には何も問題がありませんので、経験が浅い頃には焦って重量を追い求め過ぎないようにもしましょう。

また、「メインセット」=「最も重い重量」にいきなり挑戦するわけでなく、例えばスクワット60kgをメインセットとした場合には、20kg→40kg→60kgと徐々に負荷をあげていき、負荷に身体を慣れさせながらトレーニングを行います。このときの、20kgや40kgにあたるメインセット手前の慣らしセットは、ウォーミングアップセットと言い、メインセットに近い4〜8回など回数を行いますが、今回のトレーニングボリュームで扱う1セットはメインセットでの話なので、ウォーミングアップセットはセット数に含まないことを覚えておきましょう。

■ トレーニング未経験

MAX重量の60%程度

1回のトレーニングで3〜4セット

週3回まで

■ トレーニング経験者

MAX重量の80%程度

1回のトレーニングで4〜6セット

週2回まで

■ アスリートレベル

MAX重量の85%程度

1回のトレーニングで8〜10セット

週2回まで

実際のトレーニングイメージ

実際のトレーニングイメージに落とし込んでみます。あくまでざっくりとした話なので、トレーニングの計画を立てる際にはご自身の体感をベースに構築して下さい。例えば、その日は「胸」と「腹筋」のトレーニングの日にしようと決めたとします。胸のトレーニングとして、「ベンチプレス」or「チェストプレスマシン」などが代表的ですが、その日は、「チェストプレスマシン」に挑戦することにしました。

トレーニングを始める前に、軽く胸を伸ばすストレッチを行いましょう。腕を壁やマシンなどに当てて身体を開き、胸の筋肉を20秒2セット程度伸ばしておきます。ジムに胸のストレッチマシンがある場合には、そちらをご活用下さい。なお、ストレッチはやり過ぎるとトレーニングの質を落としてしまうため、20秒程度を2〜3セット行えば充分です。

ストレッチが出来たらチェストプレスマシンに座り椅子の高さや角度などを調整します。そして、ご自身が出来る軽い重量から6回前後マシンを押していきます。トレーニング未経験者の女性であれば10kgあたりからはじめることが多いです。軽い重量で何度か動かしてみてその日の調子を感じます。大丈夫そうであれば、徐々に重量をあげて6回前後マシンを押していきます。そして、30kgで4回押したところで限界が来たとします。すると、それによってその日の1RMが分かります。以前の記事で詳細な1RMの計算方法をご紹介していますが、実際にその場で計算するのは面倒なので、4回が限界の場合は概ね、+10%あたりが1RMの計算結果と合致します。しかしながらRM換算は充分なインターバルを前提としているものなので、ウォーミングアップ時には休みなくどんどんあげていくことを考慮すると、+20%あたりを1RMとするのが妥当でしょう。チェストプレスマシン30kgで4回が限界であったときには、その日の1RM(最高重量)は36kgだと分かります。運動中に計算するのが面倒な方は、4回まであがる重量まで到達したら、あともうちょっとは大丈夫と考えておけば問題ありません。1RM計算は、本当に初回だけなので、2回目以降は以前の負荷を覚えておいて、それを超えるように意識すれば簡単です。

トレーニング未経験者の場合、1RMの60%程度で3〜4セット推奨なので、36kgの60%である22kgで連続して出来るところまで行います。1RMの60%を計算するのが面倒な方は、ウォーミングアップで4回出来なくなったら、そこからちょっと下げると覚えておきましょう。60%1RMで行う場合、理論的には20〜25回程度出来る負荷ですが、トレーニングに不慣れな段階では10~15回で限界を迎えることが多いです。無理せず12回前後を目指しましょう。1セット目を終えたら、2〜3分ほど休憩して次のセットをはじめます。セットと休憩を繰り返して合計3〜4セットできれば、それで胸のトレーニングは終了です。動作と理論を同時に解説したので複雑に見えますが、整理するとまずは軽い重量からウォーミングアップを行い、押せなくなったところから少し重量を下げる。その重量で12回4セット行う。これでOKです。

次に腹筋のマシンである「アブドミナルクランチ」に移動します。軽くストレッチをしたあと、軽い重量からウォーミングアップをします。押せなくなったところから少し重量を下げて、その重量で12回4セット行います。これで「胸」と「腹筋」一日のトレーニングが終了しました。4セット2種目であれば、だいたい30分〜40分でトレーニングは終了します。体感的にもまだ少し余力を残せているくらいだと思います。トレーニング未経験者の場合、余力を残せているくらいのトレーニングボリュームでも充分発展していけるので、頑張り過ぎるよりも長く続けていくことを目標にすると良いでしょう。

また、3ヶ月もすれば運動やマシンの動きにも慣れてきます。動きに慣れてくると、トレーニング経験者だと言って問題有りませんので、その際にはトレーニングボリュームの計算がまた変わります。1RM60%は1RM80%になり、セット数も6セット目標となるために、チェストプレスマシン1種目で行っていたものも、ダンベルフライ3セットとチェストプレスマシン3セットで合計6セットなどとして、種目を分ける方が刺激が変化して効果的です。

オーバートレーニング症状について

トレーニングとは、トレーニングによって筋肉を損傷させて、その後食事と休息によって、以前よりも強い筋繊維を得ることを基本的な原理としています。過去の記事でも解説していますが、高いレベルのトレーニングになると、その成長速度は自分自身の回復速度が上限になります。筋肉が損傷して回復させることが原理であるため、筋肉が回復してからでないとその部位のトレーニングがあまり意味がないものになるからです※これは全身でなくひとつの部位目線であるため、腕が筋肉痛になっているときに、足のトレーニングをすることは問題ありません。1日ごとのトレーニングの質と量が高度になると、筋肉がより強く損傷し回復までの期間がかかります。充分な栄養が取れていなかったり、充分な睡眠が取れていなかったりすると、1部位あたり週2回のトレーニング頻度を守っていたとしても、身体のダルさが抜けなかったり、ちからがうまく入らないことがあります。

これをオーバートレーニング症状といいます。先程もお伝えしたとおり、オーバートレーニング症状はトレーニングのし過ぎだけでなく、日々の食事や睡眠、ストレス状態からも陥りやすいため、安易にトレーニング量を減少させれば良いというわけでなく、トレーニングに耐えうる日々の節制がトレーニングの質を向上させ、最終的にボディラインをより理想に近付けます。オーバートレーニング症状が出ている状態で無理をしてもあまり意味がないため、身体のダルさなどが続いた際には、トレーニングボリュームと合わせて日々の生活も見直してみると良いでしょう。よくある例として、トレーニング前の食事が疎かになっていることもありますので、栄養学の記事もご参考いただきベストなコンディションをつくっていきましょう。

男女のトレーニングの違いについて

トレーニングボリュームの話はどちらかと言えば男性的なイメージがあるかもしれません。しかしながら男性と女性では、体重の違いから扱う重さが違うものの、トレーニングボリュームの考え方や量は変わりません。ここで改めて触れておきますが、トレーニングボリュームを重ねるとマッチョになり過ぎるのではという心配が浮かぶかもしれませんが、そんなことはないので安心して下さい。トレーニングボリュームを重ねても、体脂肪が減り、筋肉量が増えることで結果的に細くなります。もしもバストトップやお尻など、「大きくしたい」「筋肥大したい」と考えているときには、トレーニング内容でなく食事を見直しましょう。一日あたり体重(kg)×2〜4gのタンパク質かつ自分自身の総代謝以上のカロリー、充分なトレーニング、充分な睡眠、それらがすべて合いようやく筋肥大は成されるため、大きくなるための鍵になるのは、トレーニングよりも食事です。

男女のトレーニングにあまり違いはありませんが、実際に指導してみると、男性よりも女性の方が同じトレーニングボリュームでも筋力が伸びやすい傾向にあります。特にお尻を中心とした下半身のトレーニングでは、男性よりも女性の方が筋力が高いことは珍しくありません。トレーニング初期では1〜2セット行っただけでもしっかり筋力が伸びていくので、最初は焦らずゆっくりはじめたとしても効果を実感出来るでしょう。安全に気をつけて、楽しんでトレーニングしてみて下さい。

まとめ

トレーニングは少な過ぎ多過ぎても効果を発揮しない

個人のトレーニングレベルに合わせて適切なトレーニングボリュームは変わる

オーバートレーニング症状に気をつけよう

筋肥大もダイエットもトレーニングボリュームの考え方は同じ