トレーニング前後の食事を戦略的に行うことで、トレーニング中の調子がアップしたり、トレーニング効果がアップしたりと効率的にボディメイクを推進することができます。ここではタンパク質や炭水化物の反応を深く知り、あなたのボディメイクと食事の関係をより適切に調整出来ることを目指します。

栄養補給はトレーニング前前後どちらが優位か

トレーニング経験者を対象にプロテインを飲むタイミングによる有意差を確認する検証が2009年アメリカにて行われました。そこでは、①朝と夜に飲む群、②トレーニング前後に飲む群、③プロテインを飲まない群の3つに分けて効果の違いを見たところ、どのパターンにおいても有意差を確認することができませんでした。通説通りに②においてはトレーニング前後にプロテインを摂取したのですが、あまりうまくいかなかったようです。

もうひとつのパターンとして、トレーニング経験者を対象に、EAA(プロテインを更に細分化した必須アミノ酸のサプリメント)+炭水化物を、①トレーニング前に摂取した場合、②トレーニング後に摂取した場合で違いを調査しました。するとアミノ酸の対象筋肉へのデリバリーは①トレーニング前に摂取した場合の方が顕著に高くなったようです。2つの検証は内容が似たものですが効果が確認できたのは一方のみでした。

少し不思議にも見えますが、これは以前の記事「【栄養学の超基礎】糖質とタンパク質について」でも触れた、タンパク質代謝においてはビタミンや炭水化物などの栄養素が必要であることから内容を理解することができます。2つ目の実験(EAA+炭水化物)では、タンパク質と同時に炭水化物を摂取しているために、体内に貯蔵されていたビタミン等と相まって、タンパク質が身体のなかで働くことが出来たと考えられます。また、タンパク質の摂取はトレーニング前後どちらが優位かを考える際にも、タンパク質が代謝され機能するプロセスを考えると理解できます。分子の大きなプロテインは体内で分解されて、アミノ酸に変換され、血中から各所へ運ばれていきます。プロテインはこの「分解」⇒「生成」⇒「運搬」の3工程を経るために、トレーニング時に筋肉に運搬され機能させるためには、トレーニングの前に予め摂取して分解をはじめておく必要があるというわけです。このことからEAAはプロテインを更に細分化したアミノ酸のアプリメントであるために分解に必要なプロセスがプロテインよりも少なく、トレーニング直前やトレーニング中のタンパク質の補給として優れています。食事から摂取する場合やプロテインでタンパク質を補給する際には、分解するプロセスも含まれるためにトレーニング前の90分〜120分程度は時間の余裕を持っておきたいものです。

糖質とタンパク質を同時接種する

トレーニングにおけるタンパク質の供給はトレーニングに前からはじめておく必要性が見えて来ましたが、タンパク質の代謝プロセスを考えると炭水化物や各種のビタミンも同時に摂取しておくことでタンパク質が機能することがわかります。そのためトレーニング前のタンパク質摂取と同時に、ごはんなどの炭水化物を摂取しておくことが重要です。トレーニング前の食事のタイミングは、消化が充分にされて胃の中に何も入っておらず、かつ栄養が血中に充分に満ちている状態が良いために時間の調整が可能であるときにはトレーニングの90分〜120分前に食事を摂ると理想的です。また、大まかな理解ではありますがタンパク質は骨や筋肉をつくるものであり、炭水化物は運動中のエネルギーを供給するものであるために、トレーニング中に血中の糖質つまり炭水化物が少なくなると、なんだかぼーっとしてきたり、頭が痛くなってきたり、頑張ろうとしても頑張れなくなったりしてきます。そのため60分以上のトレーニングになる場合には、トレーニング中においてもすぐにエネルギーに変わるバナナや、マルトデキストリン(でんぷん)のサプリメントを摂取する方もいます。トレーニング前後の食事内容やトレーニング中の食事を自然食で取るか、サプリメントを利用するか、また何を食べるのかは人それぞれライフスタイルや価値観によっても違いますので、トレーニング前、中、後のタンパク質と炭水化物を中心とした栄養素デリバリーの仕組みをイメージした上で体調に合わせて選択できると素晴らしいですね。

トレーニング前の食事例

具体的にトレーニング前の食事の一例をご紹介します。栄養素はある程度高いほど良いのですが、あまりにお腹いっぱいになっても動けなくなるので、少なめに考えたとき、体重(kg)×0.5gのタンパク質が含まれた食品(体重50kgの場合25g)と、体重(kg)×1gの炭水化物が含まれた食品を中心に野菜や果物を適量取り、食事の栄養バランスを取ります。一般的な例では、鳥の胸肉(蒸し)と白米を用いられることが多く、筆者自身もこの組み合わせを使っています。ここに合わせて、季節の野菜や果物を適量取ります(多く食べるほど良いが、野菜や果物は水分と食物繊維が多くお腹いっぱいになりやすい)。

また、白米とバナナと食べたときなど、同じタンパク質や炭水化物においても、細かく見れば別々の必須栄養素を持ったものを摂取することができます。必須栄養素はバランスを良くすべて摂取する必要があるために、一日の食事のなかでも単一の食材で考えるより複数の食材で構成するほど身体に良いものです。タンパク質ひとつを例にとっても、タンパク質とはアミノ酸が結合したものであり、つまり必須アミノ酸である、イソロイシン・ロイシン・バリン・ヒスチジン・リシン・メチオニン・トリプトファン・フェニルアラニン・スレオニンの9種類をすべてを摂取する必要性があるため、タンパク質から意識を広げて身体に必要な栄養素全体をみたときには、多様な食品から栄養を摂取する大切さが分かります。たとえ1日単位ではすべての必須栄養素を網羅することは難しくとも、一週間や一ヶ月で見て様々な食品から各種の栄養素を摂取することによって、必須栄養素を補い合うことが出来ます。ボディメイクに集中するほどに単一食材や単一食品に頼りがちになるものです。基本的な三大栄養素の必要性とともに様々な食品から栄養を摂取することを心掛けましょう。

オフ日の食事はどうするべきか

トレーニングをする日をオンとして、オフの日の食事はどうするべきでしょうか。トレーニングがないので特定の時間に向けてエネルギーを高める必要はありません。しかし、トレーニング後の身体の回復はトレーニング後から72時間継続して行われています。トレーニング後72時間はタンパク質の合成や内臓の回復などが盛んに行われることを考えると、オフの日でもタンパク質をベースとして炭水化物やビタミン・ミネラルが不足しない食事が大切です。

以前もご紹介しましたが炭水化物は体内で最大400g程度しか貯蔵できないため、一日のなかで定期的に摂取する必要があります。炭水化物が不足すると、骨や筋肉が分解されてエネルギーや別の筋肉の回復に使われることとなりトレーニング効果を損ないます。これは例えば自分のトレーニングを上半身と下半身に仮に分けてトレーニングをするとしたとき、上半身をトレーニングし栄養補給を充分に行ったとしても、翌日の下半身のトレーニングのあとにお腹が空いた状態が長く続けば、上半身を含めた身体各所の骨や筋肉を分解して下半身の回復に当てます。慢性的にお腹が空く状況が長く続くとトレーニングによって出来た筋肉をまた別の部位の回復に用いて体内の筋肉やエネルギーをぐるぐる回しているだけの循環になっていることもありますので、バランスの良い食事を一日のなかで定期的に摂取する必要があります。この際タンパク質も不足しないように、一日の食事全体でみたとき、体重(kg)×2g〜3g程度を目安に体調を見ながら調整しましょう。

一日に必要なタンパク質の量はトレーニングボリュームや体調によっても変化します。例えば、ボディメイク初期の頃の軽い全身運動を行う場合においては、筋肉の損傷が小さいため血中に含まれるアミノ酸のデリバリーで充分機能出来るためタンパク質の摂取を過度に増やす必要はありません。それがボディメイクに慣れて日々の筋肉痛とともに筋肉の損傷を伴うようになると、タンパク質が通常の骨や髪、内臓の新陳代謝に使われることに加えて筋肉の回復にも必要になり、必要な摂取量が増えていきます。炭水化物が不足したときには空腹感や倦怠感とともにすぐさま体調に変化がありますが、タンパク質の不足は体感があまりないため日頃から意識して摂取量と必須アミノ酸のバランスを取ことが望ましいです。タンパク質が慢性的に不足すると髪や肌が乾燥してきたりと害もありますが、タンパク質は摂取過多になっても体調が悪くなったり、胃腸が気持ち悪くなったり、にきびが出来たりするため適量であることが大切です。一日や二日のたんぱく質の過不足によって大きく体調が変化することはないのであまりに過敏になる必要はありませんが、やはりこのあたりタンパク質を含めた食事の摂取は、身体のフィーリングを見ながら調整する必要があります。

あなたの調子に合わせて反応を見ていく

これまで理論的な食事の摂取を提唱してきましたが、最終的にはフィーリングで調整する必要があります。研究データや理論は、大まかな人体と栄養の反応は参考にできても、個人レベルまで細分化して考えるとき、画一思考ではプラスにはたらくときもあればマイナスにはたらくこともあります。人それぞれ持っている分解酵素や内臓の強さや体格など様々な要素が違っているので、ひとつの考え方で美と健康のすべてを包括することは不可能なのです。大切なのは、基本的な理論をもとに自分自身で試し、体調の反応をよく見て、自分に合った食事法を長い時間を掛けて構築していくことです。すぐに答えや結果を求めようとせず長期的に考えるほど安全性は高まります。ひとときの美のための無理が一生の健康に傷を付けることになってしまえば本末転倒ですので、例えばダイエットひとつとっても安易に1〜2ヶ月で結果を出そうとするより一年を通して理想の身体を目指していく精神に美しさを見出すことをオススメします。理論はおおまかに参考にしつつも、最終的にはあなたのフィーリングと、食事を楽しむという視点から多少なり寄り道をすることも人生を豊かにしてくれることをお忘れなく。

まとめ

栄養補給はトレーニング前を重点的に

タンパク質は炭水化物と同時に摂取する

日中エネルギーが不足しないよう炭水化物を摂取する

オフの日もタンパク質と炭水化物は必要

最終的には自分のフィーリングで食事を調整する