ボディメイクにおいて筋肥大が重要であることは周知のことですが、実際、筋力と筋肥大はまた別のもの。筋力の強い人が筋肉が大きいわけではないのです。このようにトレーニングにおける筋肉と筋肥大の関係と、それに伴うRM・REPについて紹介します。
筋力と筋肥大は必ずしも比例しない
筋力とは言葉の通り、筋肉が発揮することが出来るちからのことを指しています。これはトレーニング種目ごとに表されることが多く、スクワット◎◎kgの筋力、ダンベルカール◎◎kgの筋力などと表現されます。これに対して筋肥大とは、筋肉は大きくなる過程や作用のことをあらわしています。筋肉の繊維にはすばやく収縮する事ができる「速筋繊維(一瞬で大きな力を発揮する)」とゆっくり長い間収縮し続けることができる「遅筋繊維」の2種類があり、ひとつの筋肉にはこれら2種の筋繊維が配合され存在しています。そして筋肉の収縮力は筋繊維の密度や神経伝達理能力などさまざまな要因があって出来ており、筋肉と筋肥大の関係は少し複雑です。
分かりやすく2つのタイプをご紹介します。まずは「パワーリフター」です。彼らは筋肥大でなく、より重い重量を持ち上げる重量挙げ等の競技を目的としています。とにかく身体の大きい方や筋肉質な人など体型はさまざま。外見は細身な方もいることが特徴的です。
私たちはトレーニングの目的を「ボディメイク」においているので、「ボディービルダー」「フィジーカー」「トレーニー」等と称されます。重量を扱うことは自分の理想とするボディラインに近付くためであり、それぞれの目標にあった体型を目指してトレーニングをしています。パワーリフター相当の超高重量を扱える人もいれば、安全な範囲での重量選択をする人もいます。
筋力を付けたとして必ず筋肥大するかといえばそうでなく、筋力が筋繊維の密度で現れている人は筋肉の体積は変わりません。ですが筋肥大をするためには、ある程度筋力をつける必要があるので、高重量が扱えるよう訓練を要します。つまり筋力を高めるために筋肥大は必ずしも必要ではありませんが、筋肥大をするためには筋力が必要だと言えます。
筋力や筋肥大のために高重量トレーニングをするといえば、女性にはいまいちピンと来ない方もいらっしゃるかもしれません。これは以前の記事でも紹介した通り、人間の肉質というのは「筋肉」「脂肪」の2種類しかないため、メリハリボディのハリ(張り)の部分は筋肉であるということを思い出して下さい。筋肉の上に脂肪と水分の層があり、ふんわりとした見た目のまま張りの部分が出来ます。ざっくりと体脂肪率が12%以下にならなければゴツゴツとした見た目とならないので、筋肥大を恐れる必要はなさそうです。
筋肥大に必要な3要素
筋肉を発達されるために必要な要素は3つあります。「物理的張力」「筋ダメージ」「代謝ストレス」です。1つ目の物理的張力とは、筋肉にウェイトが掛かったり、強いちからを発揮したときに筋肉に掛かる負荷のことです。物体を強いちからで押すときには、同時に筋肉に対しても同じだけの負荷が掛かり釣り合っています。より大きな負荷を筋肉に与えるためには、より全力に近いちからでモノを押したり引いたりすることが必要です。全力に近いときほど、物理的張力も大きくなるため、トレーニング効果が高くなります。
2つ目の筋ダメージとは、筋肉の損傷です。筋肉痛に大きく関わっているのはこの筋ダメージではないかと推察されています。未だ謎の多い筋肉痛のメカニズムですが、筋肉が伸び縮みする際に筋肉の繊維が傷付き、損傷しているとイメージすると感覚が分かりやすいかもしれません。筋肉を伸び縮みさせることによって筋ダメージは引き起こされるので、全力で持ち上げて6〜10回出来る程度の重量でトレーニングすることで得られます。特に、収縮に対して伸展(ポジティブでなく、ネガティブ動作)の際に、より筋ダメージは大きいために、ネガティブ局面に負荷が抜けないように丁寧に行うことが大切です。例えばダンベルアームカールでは、ダンベルを持ち上げたあとにさっと降ろしてしまうと筋肉痛になりにくいのですが、ダンベルを持ち上げたあとに負荷が抜けないよう注意しながらゆっくりと降ろすようにすると筋肉痛になりやすいといった具合です。
3つ目の代謝ストレスは、高回数のトレーニングなどによって筋肉内の酸素が失われたり、筋肉を発達されるシグナルが発信されることで筋肉に対して超回復がなされるようにするものです。全力で持ち上げて15〜30回出来る程度の重量でトレーニングをして、30秒〜1分程度の短いインターバルで次のセットに入るようにすると、より筋肉内の酸素欠乏や血流集中が成されて効果的です。
これらのうち、ひとつでも筋肉の成長は成されますが、3要素すべて揃うことでより大きな効果を発揮するため、トレーニングの際にはこの3つを満たすようにすると良いでしょう。「物理的張力」「筋ダメージ」「代謝ストレス」はそのまま「刺激」「筋損傷」「栄養補給」と言い換えると、筋肉の成長構造である超回復において、どれが欠けても作用が著しく減少してしまうのはイメージ出来るのではないでしょうか。
筋肥大させたいくないトレーニング
理想のボディラインを考えたとき、すべての筋肉が大きければ良いかといえば、そうでない場合もあるかもしれません。男性であればすべての筋肥大が理想になり得るのですが、女性の場合そうでないこともあるでしょう。そういった場合はどうしたら良いのでしょうか。
まず最初に理解しておくべきことは、特定の部位だけ筋力を強めてはいけないということです。筋肉には拮抗筋という反対の動きをする筋肉があり、上腕二頭筋に対して上腕三頭筋が拮抗し、前腿に対して後腿が拮抗しています。このように筋肉は釣り合ってバランスを保っているのです。これが片側だけ強くなっていくと筋肉はゴムのように常に引っ張っているため、この引っ張るちからが強くなります。例えば、前腿と後腿の拮抗筋バランスが崩れると股関節が前傾したり後傾したりするのが一般的な例です。それ以外にも拮抗筋のバランスが釣り合って様々な動きが出来ているので、ある一部の筋肉だけを鍛えていくと、扱う重さが大きくなるほどにどんどん怪我のリスクが増していきます。ですので、部分的に鍛えるというのは人体にとってあまり優しいものではありません。
それでも理想のボディラインを考えたとき、ある程度は筋肥大させないようにトレーニングをすることで、筋力は鍛えるけれども筋肥大は極力抑えるといった落とし所もあります。先述した通り、筋力と筋肥大は別物なので、筋力を鍛えることでゴムとしての張力は釣り合うようにしたいといった具合です。
その方法は至ってシンプルです。筋肥大で必要な3要素でも解説したとおり、筋肥大には「物理的張力」「筋ダメージ」「代謝ストレス」の3つの要素が必要なので、それらのいずれかを抜いてしまえば良いのです。具体的には、本来であれば最大重量でトレーニングをしたあとには、6〜10回や15〜30回などの高回数のトレーニングに移りますが、筋肥大させたくない部位に関しては高重量の日と高回数の日を別日にトレーニングします。最大重量に近い高重量でトレーニングを行えば筋力は伸びていきます。そこでトレーニングを終了すれば筋肥大しにくいというわけです。しかしながら高重量のみでトレーニングを続けていくと、筋力とともに扱う重量が増えていくけれども、関節や腱、筋組織が弱いままになってしまい怪我のリスクが上がっていきます。ですのでフォームを整えながらも高回数行う日が必要です。結果的に筋肥大を極力避けてトレーニングをしようとすると、高重量の日と高回数の日を分けて行うといった結論に行き当たります。あくまでも極力といった具合です。筋肉は全身バランス良く鍛えるのが原則ですし、筋肥大=筋体積が大きいというのはちからを発揮するにも有利になるため、あまりに極端な部分トレーニングは避けたほうが良いということは頭のどこかにおいておきましょう。
実際のトレーニングイメージ
筋肥大に必要な3要素を効果的に得るためには、どのようにトレーニングを行っていけば良いでしょうか。まずはより大きな物理的張力を得ることを考えますが、そのためには筋肉により大きな負荷が掛かる高重量でトレーニングをします。トレーニングは大きく分けて2つ以上の関節を動かすコンパウンド(多関節運動)とひとつの関節を動かすアイソレーション(単関節運動)があります。足やお尻のトレーニングで言うと、スクワットはコンパウンドであり、レッグエクステンションやレッグカールなどはアイソレーションと言えます。より高重量を扱い大きな物理的張力を得るためには、トレーニングの前半にコンパウンド種目を行うことと、インターバルを2〜5分など長めに取るようにします。この物理的張力を求める段階では、インターバルを長めにとってしまっても効果を損なうことはあまりなく、2セット目、3セット目と高重量を扱うためにはしっかり休むことが大切ですので、思い切ってインターバルをとって大丈夫です。この際、全力に近い高重量であるほど効果的ではありますが、慣れないうちは安全に配慮をして充分に余裕を持って行うようにしましょう。
具体的には、スクワット60kgが限界重量だとすると、まずはバーのみ(20kg)で6〜10回スクワットをして、次に10kgプレート2枚を付けて(プレート10kg2枚+バー20kg=40kg)6〜10回スクワットし重さに徐々に身体を慣らしていきながら、体調を見てその日の最高重量を50kgにするか、55kgにするか判断しましょう。これが物理的張力の段階です。トレーニング初期ではその日の最高重量が2〜3セット程度あれば良いでしょう。
次に筋ダメージについて考えます。この段階は先程の物理的張力の段階とは違い、必ずしもトレーニング前半でなければ高い効果を得られないというわけでないために、トレーニング中盤〜終盤にかけて行います。限界重量の60~80%程度の少し余裕がある重量で行い、6〜10回を2〜3セット程度丁寧に行います。時間が許すのであれば、スクワットですべての足の筋肉を鍛えるよりも、レッグプレスマシンや、レッグエクステンション、レッグカールなど大きな筋肉から小さな筋肉にかけてひとつの関節ずつ行うほど丁寧に収縮させることが出来るため効果的です。
また、筋肉はポジティブよりもネガティブ時により大きな力を発揮する性質があるため、ちからを抜く際や降ろす際などネガティブ局面を3〜5秒等かけてゆっくりと行うことが大切です。ネガティブの負荷が掛かっている時間をより長くすることがトレーニング効果を高めます。
最後に代謝ストレスについては、筋ダメージの最終セット後に行います。マシンごとの限界重量の50〜60%程度の重量で15〜30回程度、素早く行います。実際には、最高重量の55%だと20~25回あたりで限界が来るので30回を目指して出来なくなるまで行うことになります。インターバルを30秒から1分取り、それをもう一度行います。ここでは筋肉内を酸素欠乏状態にしたいためにインターバルは短く行います。もしも、2セット目から20回を下回りそうであれば最高重量の50%程度(-5%ほど)重さをドロップして回数をキープしましょう。3〜5セット程度行えば、その部位に水分や血液が集まるのを感じることが出来ると思います。また、最終セットの最終回数のときに、最もキツイ体勢で45〜60秒ほどキープすると、更に筋ダメージを追い込むことが出来て、しっかりと筋肉痛になることが出来ます。
トレーニング終盤になると段々と体もダルくなってきて途中からぼーっとしてトレーニングが継続出来なくなることもあります。これは体内に蓄積しているグリコーゲンや水分が著しく失われていることから来ているために、トレーニング前の食事や栄養補給と、トレーニング中の水分補給は意識をして行うようにしましょう。これにらついては過去記事で詳しく触れているので、これまでの記事をご参考下さい。
RMとREP
これまでも最高重量の◎◎%でといった表現を度々していますが、こういった表現をRM(Repetition Maximum)法と呼びます。例えば、スクワットひとつとっても最高重量が100kgだったとして、100kgを1回なのか、100kgを10回なのかで負荷が違っていますね。こういった重量と回数を表現するときに、1RM◎◎kgと呼びます。これだと1回で最高何キロあげることが出来るか?といったものです。先述している最高重量の50%や60%などは、50%1RMと60%1RMなどと表現することが出来ます。50%1RMは最高重量×0.5のこと。
これは3RMや6RMなど、例えばスクワット100kg6回上げることが出来たなら、120kgで3回上げることが出来るかもしれないし、1回であれば130kg持ち上げられるかもしれないといった目算が立ちます。実際に1RM挑戦してみても良いのですが、1RMは本当の本当にギリギリであるために体調をよく見ておいたり、失敗したときの助けの準備が必要であったりと少し配慮も必要なので、自分の限界を先に知っておくことは重要です。
計算方法をご紹介します。内容を覚えておく必要はありませんが、1RMというのは最高重量のことを指すといった程度は憶えておくと今後ともスムーズでしょう。
オコナーの式
1RM = 重量 × 回数 ÷ 40 + 重量
田中・笠原の式
1RM = 重量 ÷ ((102.89 - 2.9119 × 回数 + 0.0319 × 回数^2 - 0.000035399 × 回数^3)÷100)
RMに対してREPがあります。これはrepetitionの略で反復回数といった意味です。正確な意味としては◎◎回であるために、10REPといえば10回することを指していますが、慣例としてREPと表現したときには、1REP=1RMであり、10REP=10RMといったニュアンスが含まれています。例えば、10kgを15回であれば「15回」と表現しますが、15REPと表現したら「15回ギリギリ出来る重さで15回」といった具合です。人によって扱う重量は違いますが、自分の体力に合わせて重さを調整しながらも、回数は変わらないというのがトレーニングの原則です。スクワット100kg10回出来たのなら、次に目指すのは100kg15回ではなく、105kg10回であるということです。このように人それぞれ違うように思えるトレーニングの負荷も、上級者も初心者もスクワット10REPといえば、それぞれの適正な重量で10回行うといった具合で統一して表現することが出来ます。RMといえば最高重量のことを指し、REPといえば限界回数と憶えておけば良いでしょう。
まとめ
筋力と筋肥大はトレーニング内容が異なる
筋肥大の3大要素は、物理的張力、筋ダメージ、代謝ストレス
筋ダメージは、ネガティブを特に意識する
代謝ストレスは、インターバルを短く高回数行う
RMは最高重量、REPは限界回数