ボディメイクについて脂肪と筋肉の関係はよくフォーカスされがちですが、水分補給もとても大切な要素です。身体のほとんどが水分で出来ていると言われる人体ですが、この水分の量を適切に保つことによって、トレーニングパフォーマンスの向上や普段の体調の向上にも寄与します。
水分補給とは?
水分は私たちの身体には沢山の水分が含まれており、成人で体重の60〜65%が「体液」とよばれる水分で出来ています。体重50kgの成人女性ならば、約30リットルもの水分を体内に蓄えていることになります。まさに人間は水でできているといってもよいでしょう。飲料水などで摂取した水分は、腸から吸収され、血液や細胞内の「体液」となって全身を循環しています。体液の循環は、私たちの生命に関わる様々な役割を果たしており、酸素や栄養分を細胞に届け、老廃物を尿として排泄しています。また、体温が上がったときには皮膚への血液の循環を増やし、汗を出して熱を逃がすことで体温を一定に保ちます。
私たち人間は、暑いところでは皮膚の血管を拡げ血流量を増やし、汗をかくことで体温を調節しています。しかし、たくさんの汗をかきすぎるとその分だけ体液を失い、体温が上昇し、身体の調子が悪くなったりパフォーマンスが落ちたりします。体内の水分がわずか2%失われるとのどの渇きを感じ、運動能力が低下しはじめます。3%失われると、強いのどの渇き、視界がぼやける、頭がぼーっとしてくる、食欲がなくなるなどの症状がおこり、4~5%になると、強い疲労感や頭痛、めまいなどの脱水症状があらわれます。たった5%でまともに動けなくなるほど、人間にとって水分の摂取は欠かすことができないとても大切なものなのです。
電解質との関係性
私たちは普通に生活していても、尿や皮膚から水分蒸発、呼吸によって、1日に約2.5リットルもの水分を身体から失っています。これに対して、飲み物や食べ物から摂取する水の量も、自然と1日あたり約2.5リットルに調節され、体液はいつもバランスが保たれています。たくさん汗をかいたときにはのどが渇きますが、それは汗から失った体液を回復させようとする身体のはたらきです。
私たちは暑い時には汗をかいて体温を調節します。その働きが正常に働くためには、体液(水分)の量が十分であることと、水分とイオンのバランス、つまり体液の濃度が常に一定であることが重要です。汗をかくと水分と一緒にイオン物質、主としてナトリウムNaとクロールCl(塩)が失われます。このとき水だけを飲んでいると、体液中の水分とイオンのバランスが崩れて体液がどんどん薄くなリます。すると身体は体液が薄くなることを防ごうとして、のどの渇きが無くなり、また過剰な水を尿として排泄します。その結果、体液の量は十分に回復できなくなります。この現象を自発的脱水といいます。
汗をなめるとしょっぱいのは、汗には水分だけでなくナトリウムなどのイオンが含まれているからです。汗をかいたら身体から失われた水分とナトリウムを補給し、すみやかに身体をうるおす飲料が最適です。これらの電解質を適度に含む飲料がスポーツドリンクというわけです。汗をかいたときでなくとも私たちの身体は常に水分を放出しているので、定期的な水分摂取とともにある程度のイオンの摂取が必要であることもイメージ出来るのではないでしょうか。
スポーツドリンクは体内の電解質濃度と似た状態に作られており、水分の組成としては0.1~0.2%の塩分(100ml当たりナトリウム40~80mg or 水1Lに対して1〜2g)と、適度な糖分(糖質)を含んだものが水分補給には効果的です。運動量が多いほど糖分を増やしてエネルギーを補給しましょう。特に1時間以上の運動をする場合には4~8%程度の糖分を含んだものが水分補給には効果的です。糖分を含んだ水分は腸管内での吸収スピードが速く、保水率も高くなります。これには、イオン飲料が手軽ですが、自分で調製するには1リットルの水、ティースプーン半分の食塩(2g)と砂糖(てんさい糖)を少量溶かしてつくることもできます。味としてはいまいちなので、これにレモン汁とEAA(アミノ酸サプリメント)などを足すとスポーツドリンクの風味になります。
また、牛乳やお茶、オレンジジュース等さまざまな飲料摂取後の水分保持率を検証した実験では、水以外の飲み物でより高い水分保持率が計測された例もあります。一般的な水分補給といえば水やお茶をイメージしますが、味の付いた(他の栄養素を含む)水分はより高い水分保持率を実現しています。市販のジュース類は、加糖の質があまり良くないため過度な摂取には注意が必要です。基本的には水分は自分で準備しておくことが推奨されます。
水分補給の目的
私たちが水分を摂取するのは、腸から吸収された水分を血管内で留めて体内の水分濃度を一定に保つことを意図しています。身体の血管は網目状に張り巡らされており、毛細血管など細かな血管では特に、普通の水やお茶などの水分は腸から一旦吸収されても粒子が小さく排出されるスピードが早くなってしまいます。これでは、水分は体内に留まっておらず目的を果たしてはいません。あなたも、のどが渇いて水を一気飲みした際に、喉は潤うけれどもすぐにトイレに行きたくなり、飲んだ量と同じくらいの尿が排出された経験はあることでしょう。この際に、尿の色が透明であれば摂取した水分がうまく体内に留まっていない可能性が高いでしょう。
※実際の水分の原理はイオン保有量の浸透圧差によって水分が行き来していますが、圧力差で水が移動するとイメージしにくいために粒子が小さく抜けるような表現をしています。細胞関連を正確に知りたい方は、イオン電子のやり取りで物質が移動していることをイメージしていただければ正確です。
つまり、摂取した水分を体内に留めて機能させるためには、シンプルに水やお茶を飲むだけでは不十分である可能性があります。水分が体内に留まるためには、前述した通り電解質を同時に摂取することによって、水分濃度を調整し体内で留まり機能することが期待できます。トレーニングなど身体的に過酷な状況にあるほど、この有用性は高まります。しかし普段の生活においても、体内の水分量が減ってくると身体のだるさや頭がぼーっとするなどの症状に繋がります。朝には問題なく活動出来ていても夕方になるとぼーっとしてしまいがちな人は、お昼に食べた食事からの水分から水分補給が充分になされていないことも原因のひとつにあり、意識的に水分保持率を高めておくことでパフォーマンスが顕著に変わることを実感できます。
また、一日に大量の水を飲むことで体内の毒素が排出されるという説があります。体内の毒素つまり老廃物は汗や尿、呼気と一緒に排出されるため、水分保持率を高めておくことでその循環を高い状態で保つことが期待できます。しかしながらこれまで解説した通り、体内で水分が保持され活用されるためには、水分とともにその他の栄養素が必要なため、ただの水を大量に飲んだとしてもその後すぐに尿として排出されてしまうため、毒素を排出といったプロセスは起こりにくいようです。やはり、一度に大量の水分を飲むというよりも一日のなかで定期的により高い水分保持率を実現するためには、こまめに水分摂取をする方が理にかなっていると言えます。
トレーニングの調子が悪いとき
日々トレーニングを行っていると、「今日はなんだか調子が悪い」「疲れやすく、頑張れなくなる」といった日もあるかと思います。それには、糖質不足や睡眠不足、内臓疲労、筋肉疲労など、様々な要因がありますが、ある程度の健康と体調が整っている中でこのような倦怠感を感じるときには、体内の水分がうまく保持できていない可能性があります。これはトレーニング前からの水分摂取を戦略的に行うことで著しく改善が期待出来ます。この水分補給のメソッドはトレーニングをしないオフの日でも、疲労物質を排出しやすくなることで疲れにくくなったり、体内の水分量を高水準に保つことで身体の超回復を促すことも期待出来るので、オンオフに限らず水分補給を戦略的に行うことを実践していきたいものです。
トレーニングに最適な水分補給
それではトレーニングを含めた一日の戦略的な水分補給法をご紹介します。まずは朝起きたときには、私たちは多くの水分を失っているため、白湯や水などを起きて最初に取るようにします。トレーニングに慣れている方であれば、プロテインやEAAを朝起きてすぐに取ることも有用です。栄養の記事でも紹介しましたが、私たちは寝ているあいだに多くの栄養と水分を消費してます。そのため朝はもっとも栄養と水分が必要であり、一日のはじまりのなるべく早いタイミングで食事と水分補給をすることをオススメします。朝は刻々と骨や筋肉が分解されているために、朝食を取らないなどすると高いレベルの健康を目指す際にはまず改善しておきたいポイントです。因みに、朝にバナナやレモン汁を含む水分などを摂取すると便通の改善に効果的です。
話を水分補給に戻します。朝の水分補給を終えたらその後は30分おき程度を目安に、30〜100mlの水分を摂取します。必ず30分おきと厳密に考える必要はありませんが、私たちは集中すると一時間以上水分を摂取しないこともしばしばあるものなので、30分を目安にこまめに水分を取ることが大事だと考えておきましょう。このときの水分は電解質を含む水分であると効果的です。食事や間食の際には栄養素が水分保持率を高めてくれるため、合わせて水分を取ると更に良いでしょう。
トレーニングの1時間前からは、ペースをよく細かくして5分〜10分おきに水分を摂取していきます。このときトイレにいくことを我慢する必要はありません。このように日中を通して水分保持率を高め、トレーニング1時間前からはその頻度を5〜10分おきまで高めることで体内に水分が充分に蓄積されている状態でトレーニングに望むことが出来ます。これは体力や活力という面だけでなく、栄養素の運搬やホルモン物質の供給などトレーニング効果を高めるよう寄与します。日中が忙しく水分が充分に取れなかったときには、トレーニング一時間前からしっかり水分補給をするようにするのもベターです。ジムまでの移動中やストレッチの際にも水分を補給することも有効です。
トレーニング中にも、失った水分を補うためによく水分補給をするようにします。前日した通り体内の水分保持率によって、運動のパフォーマンスが変わるためより高い水分保持が効果的です。またこの際に、電解質の入っていないただの水などを一気に摂取すると、自発的脱水状態になったり、急性ナトリウム血症(体内のナトリウムNaCl濃度が急激に低下し、めまいや頭痛が発生する)などの症状が出たりします。ジムで一生懸命にトレーニングをしている人ほど、トレーニング後半で頭痛になるという人も多いので、水分とともに0.1〜0.2%の電解質を摂取することが大切です。トレーニング中に軽食を挟むと調子が良くなる人も電解質や栄養素が充分に供給されるからだとも考えられます。栄養補給や水分補給は生活の中で優先度が低く考えられがちなことではありますが、私たちの調子やパフォーマンスに大きく関係しているので、ぜひ大切に考えるようにすると生活の質がぐっと向上することでしょう。
まとめ
人体の60〜65%は水分で出来ている
体内の水分が3%失われると体調に異変がでる
汗をかくことでNaとClイオンが失われる
水分補給にはナトリウムとその他の栄養が必要
一日のなかで定期的に水分補給をすることが大切
トレーニング前には10分おきに水分補給をする