CHAPTER 10 マーケティング・コミュニケーション

 

見知らぬ誰かがあなたの家の戸を叩く。ドアを空けて開口一番こう言う「やぁ!こんにちは、私は○○の販売をしています。買いませんか?」そう言われて、「ありがとう!是非」という人はいない。商品やサービスは信頼関係なしには契約は成立しないのだ。

だがこれと同じ間違いを多くの起業家がしてしまう。あなたが自分のビジネスに一生懸命になるあまりに、他人にも無条件に同じことを求めてしまう。SNSで突然送られてくるメッセージや、開口一番メルマガやLINE@に登録しませんか?という案内。

それらすべてがビジネスの品性を下げてしまっていることに彼らは気付いていない。無料であり有料であり、どんなアクションにも求められる信頼の厚みがある。コミュニケーションが到達してはじめて案内を送ることが自然になる。前戯なく本番が出来ないように、何を求めるにしろコミュニケーションから。

では逆に考えると、どれだけのコミュニケーションを準備すればあなたのビジネスを案内出来るのだろうか?ここでは「マーケティング・コミュニケーション」という視点からビジネスの案内の手前にあるコミュニケーションについてデザインしよう。

 

マーケティング・コミュニケーションをデザインする

 

ファイナルファンタジーの発売はスクウェアエニックスが手掛けるTVゲーム業界の最たるイベントのひとつだ。100万人以上の人が発売を心待ちにし、提供開始の0時ちょうどに向けて準備をする。累計800万本以上を売り上げたその手腕は素晴らしく、なかでも大きな役割を果たしているのは、シグナルという概念だ。

シグナルとは、経済学のひとつの概念で有識者とそうでないものの、情報の非対称性を伴うとき、情報の開示をすることである。そして、より有能な人、より美しい人、より強い人など。より多く持つ者が影響力を行使できるというのが資本主義社会の基本原則。シグナルとは、情報の公開であり、マーケティングにおいては、情報をどのように公開していくかをデザインすることによって、カートオープンそのものを演出することが出来る。

ことTVゲームの発売においては、まず開発段階でマーケットへの周知が行われる。発売が決まったわけでもなく開発をしているところから、メディアに掲載しファンはそれを喜ぶ。開発状況やエピソードなども逐一自社のHPや雑誌、様々なメディアで取り上げて、ファンはそれを見るたびに期待感を高めていく。発売日が決まったときには、お祭りのように盛り上がり、当然発売日の盛り上がりは素晴らしいものとなる。

確認するがこの一件の流れは、制作会社がファンに対するプレゼントを企画しているわけではない。商品を販売しているだけだ。だが、ファンは商品を購入出来る喜びと手に取ることが出来る喜びに溢れている。例えばそれが、発売後に小売店に陳列され、自社HPでお知らせが来るだけではこうはいかないだろう。

あなたの商品やサービスはどのようにマーケットに周知されているだろうか。商品を発売したあとに、買い手を見つけていては遅い。販売前から期待感を高め、あらかじめ売っておいて、カートオープンをするのが理想的だ。

 

発売前に完売すれば最高である

 

シグナリングでまず最初にすることは、これから起こることを事前に知らせることを指す。「新商品を発表します」「イベントを企画します」「新たなサービスを開発します」等々、初期段階で今後の見通しを開示する。そしてその後も、開発状況や紆余曲折しているエピソード、作者のこだわりなど、各種のストーリーとともに期待感を高めていきながら、「詳しい情報を知りたい方はこちらに」「予約をしたい方は」と、相手にもシグナルを要求する。

シグナルをコミュニケーションすることによって、ファンの声を商品開発に活かすことも出来る。その際大切なのは一体感であり、ファンも同じようにドキドキしながら開発に参加しているような気持ちにさせることだ。実際に手を貸してもらう必要はないが「参加しているような気持ちになれる」感覚を共感することで、開発段階のストーリーさえファンを楽しませ、コンテンツの一部を先に手にとって貰っていることになる。

 

シグナリング・コミュニケーションで一体感を出す

 

マーケティングの主導権を取り、繁栄を手中で感じたいのであれば、ビジネスに条件を指定するべきだ。ドレスコードのあるレストラン、会員制のエステサロン。スマートフォンひとつさえ「Appleであることがステータス」など、条件を指定していることがわかる。長期的な繁栄のためには、顧客のちからが不可欠だからこそ、あなたのビジネスにも条件はあるはずだ。

こうしたビジネスは、人気が出たからそう振る舞えるようになったのか。そんなことはないだろうが、ただ条件をつければいいというものでもない。素晴らしい価値を提供することにより深く責任を持ち、仕事の機会を厳選して考えれば自然と条件に思考が行き着くだろう。人生の時間と機会は無限ではない。

こんな客が来ても困るという人たちはイメージ出来るのではないだろうか。あなたのビジネスとマッチングの悪い、とても取引にならない人たちだ。そうであるならば反対に、こんなお客さんであれば素晴らしいといった理想の顧客像も同時にある。あなたの理想の顧客とそうでない人たちを分かつ条件とは何だろうかと思案してみよう。

条件を意図する理由は、あなたのビジネスがお高くとまることでもなく、金持ちだけを相手にするわけでなく、あなたのビジネスが素晴らしい価値を生み出せる人を引きつけるためのアンカー(引っかかり)を成すためだ。それと同時に、あなたのビジネスにも責任が伴う。相手に条件を求めれば、こちらに対しても同等に求められる規範がある。その相乗で価値は高まっていく。発売日はいつなのか?市場にはどのような反応をして欲しいのか?具体的にどういうアクションで購入してほしいのか?相手に委ねるよりも、相手にとってどうすることがベストなのかをこちらで思案し、指定すれば、顧客も迷わない。

 

相手にどうして欲しいのか明確に伝える

 

あなたの商品、サービスの条件とは何だろうか?

 

 

ほとんどの企業は、商品を売りたがる。広告を打ち出し購入を求める。だがこのやり方は、あなたのビジネスにはじめから権威がある場合でしか通用しない。そもそも信用さえしていない段階では、「買って欲しい」と言われるだけで興が冷める。その一言でその後のコミュニケーションへの道が閉じてしまうこともある。

購入を求めれば、「買う」か「買わないか」の2択であり、ほとんどの人は買わないを選ぶだろう。むやみにキャッシュを減らして喜ぶ人はいない。「買って欲しい」その一言を伝えるのは、もっとずっと先でいい。どんなに顧客が興味を示してくれたとしても、迷っているときに「買って」と言われたらNOだ。顧客に購入を求めるタイミングは、顧客が買いたくなったとき以外にはありえない。

具体的には「購入」を求めるのではなく「シグナル」を求めよう。「契約してくれないかな?」の代わりに「このアイディアどう思う?」と会話をしよう。その場でクレジットカードを出させるのではなく、「詳しい情報を知りたい方はこちらに登録して下さい」と案内のメールを送れるようにしたり、ただ「返信」をしたり、「いいね!」を押して貰うだけでもいい。顧客が欲しいと思うまでは、積み上げるのは信頼と関心なのだ。

 

購入を求めるのではなくシグナルを求める

 

そして更にシグナルのちからを活かす手法に「レスポンスの可視化」がある。可視化とは、他にどれくらいの人があなたのビジネスに関心を持っているのかを公表するテクニックだ。SNSやHP、雑誌や各種メディア、どのような媒体で、何をアピールするかは商品に合わせて自由に選んでいい。登録してくれた人数でもいいし、SNS上のいいね!であれば一目瞭然だ。

ここでポイントなのは、この可視化は「購入した人ではない」ということ。サービスの告知に「いいね!」が集まっていても全員が購入するわけではない。圧倒的にハードルが低いにもかかわらず、顧客から見ると、人気の様子が購入を前提としているように見えるのだ。本当は「ちょっと興味があるだけ」とか「たまたま登録しただけ」の人も含まれているかもしれないが、人気で列を成して並んでいる姿を見ると、それが皆購入の列のように見えて、価値があり、手に入れるのが難しいかもしれないとも感じる。シグナルの可視化は、発信と受け手の認識の差を活用したちょっとしたマーケティングの魔法なのだ。それだけに効果は大きいので、取扱には充分に注意して欲しい。

 

シグナルを可視化すれば人気を演出できる

 

あなたのビジネスが新規顧客にアプローチする場合、最初の接点のほとんどは、おそらく相手のスマートフォンになるだろう。カフェで作業中だったり、家でPC作業をしている合間に、あなたのページを開く可能性はほとんどない。多くの場合、移動中や他の何かの合間に、さっと取り出したスマートフォンであなたのページを見る。もしくはSNSのあなたの投稿を読むのかもしれない。じっくり読むことはなく、さっと流して、本当に興味があったものくらいしか、家に返ってPCで見返すことはないだろう。

きっとあなた自身も他人のページを見る際には、同じようなはずだ。だが、いざ自分のビジネスとなると、自分が制作に掛けたのと同じくらいの情熱で相手もメディアを見てくれるだろうと考えるがそれはない。相手はあなたが他人にするそれと同じように、さっと数秒見て閉じるか、興味があればもう少し読んでみて熟慮するかを考える。

このことからわかるのは、シグナルの内容は論文のような難しく長い文章は向かないということ。文章として多少変だったとしても「見るもの」としてスピーディーに読めるほうが良い。例えば、「猫が大好きな人はいませんか?猫について話がしたいです」よりも「猫好きと話したい」もしくは「猫好きいない?話そ」の方が見る文章として印象に残る。

シグナルは簡潔でスピーディーに読めること。画像や動画は明るく印象の良いこと。操作のボタンは大きく押しやすいこと。デザインは市場にとって居心地よいものであること。スマートフォンに特化して、さっと読めて質も高い。そんなシグナル発信を目指そう。

 

シグナル発信はスマートフォンを優先する

 

ここまでであなたは市場に対してシグナルを発信し、「もっと詳しい情報を知りたい」「少し興味がある」といった人たちと接する機会が増えて来ただろう。あなたのもとには、あなたのビジネスに関心のある人が集まっている状態だ。そこからあなたがするべきことは、集まってきた見込み顧客たちを「教育」し「もてなす」ことだ。「教育」という言葉は、マーケティング業界でよく用いられるのでここで使用したが、趣旨は商品・サービスへの関心を高めることにある。強い語彙だが、後考のために知っておいて欲しい。対して「もてなす」とは、楽しませることで、ファンとの間に絆を作ったり、ユーモアで楽しませたり、感情的に喜ばせることを指す。

教育の手段は様々で、オンラインの記事、動画コンテンツ、セミナーやワークショップ、分析レポート、マニュアル、診断、コンサルティング等さまざまだが、コンテンツを通じて、価値を与えながら商品への関心を高めていく。しかし相手の立場に立ってみると、そう本気で購入を検討しているわけでもなければ、24時間あなたのビジネスのことに掛かりつけな訳でもない。他のこともあるだろうし、仕事中かもしれないし、家族と喧嘩をしてしまって傷心中かもしれない。そこで「もてなし」が重要だ。誰しも感情的に嬉しいことは無条件に嬉しい。「教育」と「もてなし」をブレンドして見込み顧客に届けよう。

ブレンドの割合は、コンテンツの内容によるし、興味の深さにもよる。よりファーストな接点では、もてなしを重視した方が好ましいだろうが、購入が最終局面になったとき、いつまでも面白おかしく茶化されていては集中できない。届けるコンテンツごとに適性な割合と、その表現方法を模索しよう。

 

興味がある人たちに教育ともてなしをする

 

この段階で、あなたが最優先でするべきことは、あなたのビジネスに「ちょっと興味がある」という人たちの気持ちを「ぜひ、このプロジェクトに参加したい」と変えることだ。最も重要なプロセスであり、あなたのビジネスの根幹を担うことになるかもしれない。人は興味があれば調べ続ける。好きな映画は続編を見たいし、飽きれば見なくなる。逆に言えば、見続けて貰えば、興味のバロメーターは上がり続け、いずれ「プロジェクトへの参加」「購入」までに至る。言い換えるなら、興味を高めるということは、如何に飽きさせずに次なる情報をギフトし続けられるかとも言える。

では、どれくらいの期間飽きさせなければ良いかというと、およそ「7時間から10時間」だ。商品やサービス、価格によっても検討期間は変わるが、概ね7〜10時間思考し続ければ、人は購入に至る。多くのビジネスは商品の紹介が端的過ぎていて、顧客の心理変化をフォローできていないがゆえにうまくいかない。興味が無いから売れないのではなく、好きになるほどの検討材料が無いから購入に至らないのだ。

あなたのビジネスを振り返ってみよう、単純計算で見込み顧客が7時間以上触れていられるだけの、コンテンツボリュームは用意されているだろうか?またそのコンテンツは段階的で、映画やドラマのように次が見たくなるように工夫されているだろうか?コンテンツはオンライン記事でも、YouTubeの動画でも、パンフレットやリーフレット、HPや紹介の記事、雑誌や他のメディアなど、すべてを総合して構わない。7時間〜10時間分、あなたのビジネスに触れていられるだけの、「教育」と「もてなし」のコンテンツが無ければ、まずはこの設計から取り掛かろう。

見知らぬ人から商品を買えないのであれば、まずはあなたのビジネスが顧客の友人になることからはじめよう。その際の会話が7時間から10時間分のコンテンツボリュームにあたる。ビジネスの話をするのは、それからでも遅くない。

 

商品の世界に触れることができる7時間以上のフリーコンテンツを準備する

 

あなたのビジネスとは何だろう。あなたのビジネスで顧客に一番に貢献できるメインコンテンツとは何か。レストランであれば「料理」。銀行であれば「金融商品」にあたる。このメインコンテンツを「ミドルコンテンツ」と呼ぶ。ここまでの話をまとめて、顧客との最初のタッチポイントからミドルコンテンツの販売までの流れは次のとおりになる。

『タッチポイント』(HP検索やSNSなど)→『フリーコンテンツ』(7時間)→『フロントコンテンツ』(お試し)→『ミドルコンテンツ』(本商品)→『バックエンドコンテンツ』(高利益商品)

タッチポイントから、フリーコンテンツで教育ともてなしを施したら、商品の購入へと繋がる次のステップは、フロントコンテンツを提供することだ。これは化粧品の試供品のようなイメージで、商品の一部を実際に体感することで、五感や感情が動く。HP上で眺めていたときには価値は顧客の外側の世界にあり「傍観」している状態だが、試供品を試して動く気持ちは「顧客側」にある。

フロントコンテンツは、無料もしくは安価で提供するが、「登録」や「ダウンロード」など、何らかのステップを求めることでその価値は高まる。ブログ記事のように受け身で受け取れるものでなく、能動的にひと手間かけてもらう、そこに心理的な意味がある。フロントコンテンツは、サンプル提供に留まらず、レポート、セミナーやワークショップ、公演、パーティー、動画配信、などあらゆる形態が可能で「興味がある」見込み顧客に対して、「より高い価値」を与えることを指している。7時間分のフリーコンテンツをギフトした後に、本商品の購入を求めるよりも、「無料」もしくは「安価」のサンプルはいかがですか?と求めるほうが遥かにハードルが低い。これは受け取る側(顧客側)にとっても同じことが言える。

想像してみよう、あなたのミドルコンテンツの月間キャパシティが20人に対して、フロントコンテンツの受講が200人を超えたら?それを可視化することで、一気にあなたは自他ともに求める人気な起業家。人気なビジネスを保有している状態だ。ミドルコンテンツ20名が埋まるのはさほど難しくなく、逆にしばらく予約困難にさえなるだろう。

だが客観的に考えてそれほど不思議ではない。一般的には、ビジネスサイドは『商品説明』と顧客サイドは『購入』を引き換えるのが主流だ。それに対して、この戦略では、7時間分のフリーコンテンツをギフトし、そこで求められるのは「試供品を受け取ってくれませんか?」という圧倒的ギフトだ。そうそうNOとは言われない。しかも、一度オンライン上でフリーコンテンツからフロントコンテンツまでの流れを構築すれば、その提供は圧倒的労力の少なさで運営でき、あとはタッチポイントを増やし続けるだけで、どんどんファンは増えていく。

 

一度フロントコンテンツまでの流れを構築すれば、あとはタッチポイントを増やすだけでいい

 

あなたのビジネスのタッチポイント、フリーコンテンツ、フロントコンテンツはどのようなものだろうか?概要をメモしておこう。

 

 

<この章のまとめ>

  • マーケティング・コミュニケーションをデザインする
  • 発売前に完売すれば最高である
  • シグナリング・コミュニケーションで一体感を出す
  • 相手にどうして欲しいのか明確に伝える
  • 購入を求めるのではなくシグナルを求める
  • シグナルを可視化すれば人気を演出できる
  • シグナル発信はスマートフォンを優先する
  • 興味がある人たちに教育ともてなしをする
  • 商品の世界に触れることができる7時間以上のフリーコンテンツを準備する
  • 一度フロントコンテンツまでの流れを構築すれば、あとはタッチポイントを増やすだけでいい