足の小指をよく机の角にぶつけるようになった。不本意ながら人と肩がぶつかることが増えた。そう感じたことはありませんか?それは運動不足によって脳が身体の感覚を見失っている状態かもしれません。運動不足や過度の視覚情報による「刺激の偏り」が続くと脳が「自分の体がどこにあるのかわからない」状態に陥ります。例えば車で狭い道を通る場合、運転に慣れている人は車幅を考え容易に通り抜けることができますが、車の運転に慣れていない人は車幅感覚や適切な距離感を測れず、車体をぶつけてしまうことがあります。これは脳も同じで、身体の位置をしっかりと認識できないと、正しく身体を動かせないのです。

身体のコントロールを正確に行う為に不可欠なのが、私達の脳の中にある「ボディマップ」という身体のイメージです。久しぶりに走ったら転んでしまい、「身体が鈍った」と感じることがありますが、実は身体だけではなく脳も鈍っているのです。

刺激不足だと脳は体を見失う

ボディマップとは、「体の地図」のこと。ボディマップがあることで私たちは無意識にでも体動かすことができ、「ものを掴む」「ぶつからないように避ける」といった行動を自然と取ることができます。意識せずとも物を拾えたり、飛んできたボールをキャッチして出来るのも、自分の手足を長さ、関節をどの程度曲げればちょうど良いのかを把握しているからです。アスリートなどは日々の練習やトレーニングによって、常に敏感にボディマップを更新し続けることでパフォーマンスを向上させていると考えられます。

このように頭の中にあるボディマップは常に更新され続けますが、座りっぱなしや運動不足の状態では、ボディマップはぼやけていきます。すると、脳は身体を上手く操縦できなくなるのです。普段身体を動かしていない人が急に筋トレをして身体を痛めたり、怪我をしてしまうのはこういう理由もあります。まずは「自分の筋力はどれくらいの重さを支えられるのか」「どれくらいの可動域があるのか」といった身体のイメージを取り戻す必要があります。

「不安定さ」は過緊張による不調を引き起こす

ヒトの頭部の重さは体重の10%程度でボーリング球を細い首に乗せているようなものですが、重心を高くすることで人は移動効率を上げ、もっとも長距離移動が可能になりました。そのメリットと引き換えに、転びやすいというデメリットを抱えています。転んで頭を打てば身体の司令塔である脳が損傷を受け、命の危機を伴います。そのため、転ばないようにするために、五感による情報収集、脳からの正しい信号、そしてそれを適切に体が実行することが重要になります。ヒトは本来、目をつぶっていても真っ直ぐに立って歩くことができ、ぬかるみやマットレスなど柔らかいもの上でも転ばずにバランスを保てます。これは足をはじめ全身の感覚がきちんと働いて「自分は今”どこでどう”なっているのか」と言う自己存在の認識をしているからです。ところが、座りっぱなしで単調な生活を続けていると、刺激の偏りで情報不足になり、脳は「転ぶ危険性があるかもしれない」と安心できません。脳は「危険に備えよ」と信号を送り、身体は常に力が抜けない緊張状態になります。不必要に交感神経が優位の状態が続けば、過緊張のために肩こりや腰痛と言う不調が起こります。

運動による脳への刺激で身体をコントロールする

運動不足の場合、最も優先して行うべきなのは意識的に体動かし「体はこうなっている」と脳に教えてあげることです。例えば、小さい子供が周囲のものを触ったり、延々飛び跳ね続けたり転がり続けたりするのも、平衡感覚や触覚などの感覚情報によって脳を発達させているのです。

ボディマップを更新できれば、脳は正しく自分の身体の姿勢や動きを認識して、コントロールできるようになります。つまり、身体の不調は脳の運動プログラミングを強化してあげることで改善できるのです。身体から脳にバランスよく刺激を与えることで「自分は今”どこでどう”なっているのかを鮮明にする。そうすることで体はリラックスし、過緊張による様々な不調も改善されます。