中医学の具体的な理論や実践方法について考える前に「現代医学(西洋医学)と中医学とは根本的に考え方が違う」ということを知る必要があります。一方では「良い」と言われることが、もう一方では「悪い」と言われることもありますが、それはどちらかが間違っているわけではなく、そもそもの視点や目指しているゴールが異なるからです。

 現代医学は分析的、中医学は統合的にみる

中医学と現代医学は身体を見る視点が異なります。現代医学は、解剖学や生理学などの科学的な見地から身体を捉えます。身体を器官や組織、血液やリンパ液などに細分化し、病気があれば局所的に分析をします。例えば、体内に侵入した細菌やウイルス、不調の箇所を排除することに重きを置き、治療していく。検査にあらわれない異常は病気とは見なされません。

一方、中医学は人の身体を全体が関連する一つの有機体として捉え、身体に不調があれば、局所的な問題か、全身のバランスの乱れが原因かという複眼的な視点により、不調の根本原因を追求します。多角的な視点で不調を見て、一人一人の症状に合わせてオーダーメイドに対処できるのが、中医学の大きなメリットです。

未病を防ぐのが中医学

病気が病気でないうちに、その要因にまでさかのぼって働きかける中医学は、ちょっとした体調の変化を見過ごしません。例えば「最近食欲がない」「このところいつも不安でよく眠れない」「この頃ニキビがいくつもできる」「冬はいくら着込んでも足腰が冷える風」などといった変調があっても、病院に行く人はあまりいません。行ったとしても、大抵は「不定愁訴(原因を特定できないが、身体の不調を訴えている状態)」と言われ、安定剤を処方されて家に帰らされてしまいます。

ですが、中医学ではこうした症状を、未病が病気になる前のサインと捉えます。病気におかされようとしている体が既に戦いを始めている証拠と考えその戦いを助けるための治療を行うのです。これが中医学と西洋医学との最も大きな違いです。

体が自分で治す力を助ける知恵

人間に限らず、自然界の生物は、外敵から身を持ったり、傷や病気を直したりするための成分を体内に蓄えていて、損傷を受け、機能が衰えると、その成分を働かせて自ら回復していく力を発揮します。この力を「自然治癒力」といいます。中医学では、自然治癒力を十分発揮させるための治療として、漢方薬や鍼灸、推拿、薬膳などを用います。心の安定も体調や体質の変化に深く関わっていると考えるので、精神的なストレスを取り除いたり、規則正しい生活習慣を心がけたりすることも大切な治療になります。

一方、西洋医学では、病気になってから薬を投与したり、手術したりして治療する対症療法が中心です。眼科、耳鼻科、皮膚科といった具合に、身体の中の器官を一つ一つ部品として考え、どれかに異常がある場合、基本的にその部品を修理する治療を行います。日本でも、熱には解毒剤、頭痛には痛み止め、下痢には下痢止めというように、病気になったらそれを抑えるための薬を飲み、症状が治まれば「病気が治った」と考えることが、いつしか当たり前になってしまいました。しかし、一人一人の異なる体質や、症状の根本的な要因に配慮しないこの方法では、薬が体に合わず副作用が起こったり、一つ症状が治っても、またすぐ違う症状が出てきたりしてかえって具合が悪くなり、全身のバランスが崩れ、自然な状態を取り戻すことが難しくなってきたこともあるのです。

西洋医学は、検査結果の数値を指標にします。しかし中医学では、病の根本的な要因は身体全体の問題で、発端となるのは多くの場合、生活や環境、季節の変化などによる体質の変化であると考えます。毎日の生活リズムや仕事の大変さ、人間関係、好きなものや嫌いなものなど、私たちを取り巻くあらゆる事柄が私達の身体に与えている影響を、数字で正確に計ることは出来ません。

人の一生は、常に変化している複雑なのです。その複雑さを見ずに、結果だけを数字で表して理解しようとしても、根本的な解決にはつながらないのではないでしょうか。

それぞれの特徴を知り、選択することが大切

身体全体のバランスを整えながら、根本的な改善を目指すのは中医学ではありますが、事故などの生死に関わる外的なダメージを中医学で対処しようとすると、手遅れになる場合もあります。また、現代人は忙しく「明日の仕事は絶対に休めない」という場合は、即効性のある薬(西洋薬)が役立つでしょう。このように、どちらが良い・悪いではなく、自分自身の価値観や症状、場面に合わせて選択をすることが大切です。