多くの人が幼い頃から「風邪を引いたら病院へ行く」「皮膚炎が出たら薬を塗る」など、症状が出た時に「医師や薬に治してもらう」ということが当たり前になっています。その為、自分の健康を「症状が出た時に、専門家に良くしてもらうもの」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。健康番組などで「身体にいい食べ物」や「おすすめの運動」などが取り上げられ、健康に関心はあるものの、自分の身体と向き合い、考え、自分自身に必要な食事や運動、生活習慣を選択している方は、まだ少ないように感じます。「予防医学」という考え方もあるように、健康は「病気になった時に、どう対処するか?」よりも「日頃、自分自身の身体をどうケアしているか?」の方が大切です。食・運動・睡眠をはじめ、自分自身でできる「セルフケア」を知るのに役立つ「中医学」とその基本的な考え方について説明します。

身体は内からサインを出している

私たちは自ら感じられる体の不調に気を取られがちですが、実はそれは目に見えない身体の内側にある「五臓」が疲れているサインです。五臓とは中医学の考え方で、生きるのに必要な働きを5つに分類したものです。肝・心・脾・肺・腎に分けられ、それぞれが機能を持ち、互いに協力し合いながら、日々、私たちを生かし、育んでいます。

五臓は休む暇なく、日中も睡眠時も活動を続けています。臓器や細胞に必要な栄養分を届け、気や血を身体の隅々にまで巡らせます。ホルモンの分泌や老廃物の排泄、疲労回復、精神の安定といった、私たちの身体や心に関する全てのことに関与しています。どんなに忙しく働いていたり、ストレスを抱えていても、五臓は何も言いません。何のケアもしなければ、ただ機能が低下していってしまいますし、知らね間にバランスを崩してしまいがちです。例えば、心が疲れれば血をスムーズに全身へ巡らせることができなくなり、顔に艶がなくなったり、動機や息切れ起こすことも。また、潤いを全身に運んでくれる肺が弱くなれば、かすれ声になり、痰がたまり、咳が出たり風邪を引きやすくなります。五臓はただサインを出すだけで、自ら「痛い」「疲れた」とは言いません。五臓からのサインを正しくキャッチし、セルフケアで身体を守りましょう。

意外と身近な中医学の基本

中医学は、現代中国で行われている伝統医学のことですが、一般的には「漢方」と言う方が馴染みがあるかもしれません。ただ、漢方と聞いて苦い漢方薬を思い浮かべる方も多いでしょう。あるいは、「難しくてよくわからない」と言うイメージかもしれません。確かに、漢方薬には苦いものがありますし、中医学の理論には複雑なところがあります。現代の日本では、西洋医学が深く根付いているので、中医学の基本的な考えを知らないと、わかりにくいと感じるのも当然のことです。

ですが、本当は中医学の基本的な考え方はそれほど難しいものではなく、日常の生活にも簡単に活かすことができる「知恵」や「考え方」がたくさん詰まっています。中医学の理論の角は2点。まず、人間は絶えず変化していく、自然の一部であると言うこと。そして、人間の身体は自然界のあらゆる生物とひとつの有機体であると言うこと。この考え方は現代医学との大きな違いとも言えます。豊かな自然に囲まれ、四季を重んじる暮らしの中で文化を育み、引き継いできた私たち日本人にとっては、それこそごく自然なことで、受け入れやすい考え方なのではないでしょうか。

不調の根本要因を、身体全体をみて改善する

人間の体は、機械のような部品の集まりではありません。口や鼻から入った空気や血液などが、全身をめぐり、全身のバランスで成り立っています。こうした自然の考え方を理解できれば、「不調を改善する」ということが、「局部だけに対処すればいいわけではない」ということがわかるのではないでしょうか。

中医学では、身体の一部に表れた不調を、身体全体の問題と捉え、全身を巡るエネルギーのバランスが、身体の中のどこかで崩れてしまったために起こるものと考えます。病の根源の要因は、多くの場合、異常が見られる場所自体にあるわけではありません。だとすれば、要因を知るには、あらゆる可能性を念頭に置いて、異常のある場所と関係の深いその他の部分がどうなっているのかを、調べる必要があります。中医学が複雑なのは、異常のある箇所だけでなく、全体を知り、診る必要があるためです。

ですが、根本の要因を解き突き詰めることができれば、それを改善していくことで、次なる不調を未然に防ぐことができるようになり、さらには病にかかりにくい身体をつくっていくことに繋がります。そういった理由から中医学は「未病先防」の予防医学と言われます。「未病」とは、病気が本格的に発症する前の状態のことをいいますが、病が未病のうちに対処することはもちろん、それ以前に、病の要因をつくらないよう、体質改善を図り、身体がバランスのとれた、自然な状態を取り戻すことが中医学の真の目的です。

身体からのサインを受け取り、全体のバランスを取る

症状は身体の様々な働きの「結果」に過ぎません。身体は多くの場合、大きな症状を引き起こす前に不調や違和感といったサインを私たちに送っています。そして、身体の状態は常に一定ではなく、季節や環境、感情などの影響も受けながら、変化しています。そういった変化に対応しながら、自分自身の健康を保つには、中医学をもとに人体を自然になぞらえ、身体全体の調和を考えることが役立つでしょう。日頃から自分自身の身体や心地と向き合い、サインに目を向け、全体のバランスや循環を考えることが、セルフケアの第一歩です。